新しい歌
フルコーラスを歌い終わった。
ほんの少しだが、レイが教えてくれと言った意味が判り掛けて来た。
「もう一度……」
「ねえ、余りいっぺんに詰め込みすぎても良くないんじゃない?」
那津子が横合いから口を挟んで来た。
「本人が納得していないんだ。消化不良のままじゃ、レイ自身がこの歌を自分のものに出来なくなる」
「でも、かなり時間も経っているわよ。彼女の体力とか、そういった事も考えて上げてよ」
「なっちゃん、ぼくなら大丈夫だよ」
「ほら、本人がやる気になっているんだ。その気持ちを阻害しちゃ駄目だ」
「阻害って……私がいつ阻害したって言うの?私はこの子の身体を心配して言っているのよ。みんなと同じように振舞っているけれど、普通の身体じゃ……」
那津子は言ってしまってから自分の言葉が、レイの心を傷付けたと判った。
「レイちゃん、ごめんなさい……」
「ぼくは……普通じゃないんだよね」
「本当にごめんなさい」
「いいんだ。ぼくは普通じゃないから」
那津子の表情が曇った。
浅倉が那津子の傍に来て、部屋の隅へと手を引いた。