ルシファーゼの伝言
上坂さんは、すぐに担架で駆けつけた救急隊員によって病院へと搬送された。僕は祈るような気持ちで、それを見送った。僕はそのあとのことはよく覚えていない。とにかく必死だったから。ただ、あの場所の、あの光景だけははっきりと思い出すことができる。

その事故から7日後、上坂さんの入院している病院に僕は足を運んだ。もう上坂さんは面会はできるらしいと、上坂さんの担任から聞いたからだ。

病院は、広い緑豊かな敷地にあった。僕は受付でお見舞いの手続きを済ませると、長い廊下を通って、上坂さんのいる個室に行った。

「こんにちは。上坂さん。調子はどう?」

「まだおはようの時間だよ。8時だし。調子はまあまあかな。頭の痛いのは取れたんだけど、差し入れのコーヒーの飲みすぎで胃が痛いよ」

といって上坂さんは舌を出した。

「なんだ、元気そうじゃん」

「まあね。でも、退屈。なにか面白いことないかなぁ」

「そうだと思って、これ持ってきたよ」

僕は黒い鞄からゲーム機とカセットを取り出した。

「あ、これ!最新のiRunでしょ?それにシェファン戦記の最新ソフトもー。すごーい。前からやりたいと思ってたんだよねー」

上坂さんは目を輝かせた。僕は上坂さんが興奮してベッドから乗り出して落っこちないか心配になったので、上坂さんにiRunとソフトを渡した。

「正直、そんなに喜んでくれると思わなかったよ」

「ええ?私ゲーム好きだし。それにお見舞いに来てくれた人、あんまりいないから」

そう寂しそうに、上坂さんはつぶやいた。窓の外からみえる木の梢に一羽の小鳥が止まった。
小鳥は高い声でさえずりながら、幹をするすると登っていった。

「お母さんも、お父さんも仕事で忙しいし」

「友達は?クラスの人とか」

「うん。みんな来てくれたよ。でも。なんかよそよそしいっていうか、なんだよね。なんでかなぁ?」

「もしかしてなにかあった?」

「ううん。なにもないよ」

そう言って、上坂さんは目を伏せた。そしてか細い声でこう言った。






< 5 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop