ルシファーゼの伝言
僕はそのとき、嬉しくなって上坂さんにこう言った。

「どういたしまして。上坂さんも元気になったら学校に一緒に行こうね?」

「え?南君と一緒に?」

上坂さんは不思議そうに聞き返した。

「うん。あ、僕と一緒じゃ迷惑だよね。ごめん」

「そんなことないよ。迷惑じゃないけど、むしろ嬉しいけど、でも」

そう言って、上坂さんの言葉は途切れた。僕はそのとき、ある決心をした。それは、どんなことがあっても上坂さんを守ろうという決心を。

「好きです。付き合って下さい」

僕は、後のことなど考えなかった。上坂さんと会ってから一週間だった。上坂さんのケータイのアドレスも、電話番号ももちろん知らない。まともにしゃべったのは一週間前の電車内と今日、だけだ。普通に考えたら、それはありえないことだった。

告白したことを後悔するだろうけど、それはそれで仕方のないことだろうと思った。

「いいよ。付き合おうね。お願いします」

上坂さんは、僕に向かってはっきりと言った。僕はしばし呆然とした。こんなことってあるのだろうか?なんだか嬉しい気持ちよりも、安堵のほうが強かった。

「ありがとう。上坂さん」

僕は上坂さんの手を握った。暖かくて、ちっちゃな手を。

「上坂さんはやめてよ。彼女なんだし。理沙でいいよ」

と笑いながら上坂さんは言った。それはそういわれてみれば確かに変だ。

「じゃあ、理沙と呼ぶよ。僕は陽平でお願い」

「うん。陽平のことはまだあんまり知らないから、これからいっぱい話そうね」

そう言って、理沙は僕の手を強く握り返した。それはとても居心地のいい、幸せな時間だった。



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