鼓動より速く
多田君の表情が少しだけ、柔らかくなった。
みんな一緒なんだなぁ。
ボクも多田君や神木さんを警戒していたんだと思う。けど、多田君も神木さんも同じようにボクを警戒していたんだ。

何も変わらない。
何も違わない。

「山音っておかしなヤツだ。もっと、クネクネしてるヤツと思ったけど、なんか芯がある!もし、入る部活、決まってなかったら、野球に来いよ」
「けど」
「気にするなって!人数が足りないから、陸上部と一緒にやってるしな」
「・・・」

何も言えなかった。
嬉しくて、それ以上に悲しかった。
病気が。
ガラクタが。
ボクの生きる道を制限する。
自由が無い。
選べる自由が無い。

「美術部も来て良いからネ!」

暗い闇を神木さんが、払ってくれてた。

「いや・・・」
「あ、ヤバイ」
「ん、どうしたよ?」
「私たち、喋り過ぎ!もう20分だぁ!」
「マジか!?走るゾ」
「あ、ゴメン、気分、悪いからやっぱり、保健室に居るよボク」
「本当に?ゴメンね。山音君。無理させて」
「んじゃ、オレらだけで急ぐゾ!あの先生、野球部の顧問だから、ドヤされる!山音!部活の件、考えとけヨ!」

返事はしないまま、二人は廊下を走って行く。
ボクは走れない。
嬉しくて、ガラクタが踊り出している。

トクン。トクン。トクン。トクン。トクン。トクン。トクン。

止まらない。
今回は呼吸も乱れている。

「・・・早く・・、沈めないと 倒れ・・」

嫌だ。
こんな所で、倒れたくない。
多田君に知られたくない。
ガラクタのせいで、人生を左右されたくない。
人から友達から、気を遣われたり、心配されたくない。
ボクは・・・。











ん?身体が揺れる。なんでこんなに暗いんだ。
いや。寝ている?
夢?

ゆっくりと瞼を開いた。

「おはよ!ミノル君!」
「うわ!ハルカ!!!!」

最大級の至近距離にハルカの顔があった。

優しげな瞳。
少し鼻が低くて、笑うと笑窪が出来る柔らかそうなほっぺ。
細い首筋に、いつもは結っていない髪を両サイドで縛っている。
神木さんとは違う幼い顔。
まだ小学生みたいで、制服が全然、似合って・・・・・・・・・・・・・。
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