鼓動より速く
ハルカを何故、突き飛ばしたのか?
恥ずかしいという感情がボクを包み、自分勝手にハルカを突き放した。
あの時、神木さんが来るまで、ボクは、ハルカに救われていた。
ガラクタなんか、どうでも良い。そんな感情さえ、芽生えていた。
ボクは何を恐れ、何を恥ずかしいと思ったんだろう?
生きる事を直視していないから、そう思うんだろうか?
情けない人間だ。
ガラクタ以上にボク自身がガラクタみたいだ。
ボクはこれまで、走る事に執着していた。その反面、ガラクタというハンデイを恥ずかしく思い、隠したかった。
普通に生きたい。
そう願う事が、走る事に繋がった。
普通の人のように走れれば、ボクは・・・・。
自分勝手だ。
何も分かっていない。
ボクは自分自身のためにではなく、他人のために走っていた。

「ハルカ、明日、海に行かない?ボクも詩を書くよ」
「え?」

ハルカはカバッと起き上がった。
目を泣き腫らした。
ずっと、泣いていたのは、明白だ。

「ボクも詩を書こうと思うんだ」
「ミノル君が?」
「そうだよ。変かなぁ?」
「ううん。全然、変じゃあないよーん。んじゃあ私・・」

ハルカはピョンとベットから飛び降り、沢山の紙の中から真っ白のキャンバスを取り出した。

「私、絵を描くよーん。詩が完成したら描こうと、思ってたんだよ」

嬉しそうにキャンバスを抱きしめるハルカ。
前に何故、描かないのって、聞いた時は答えを濁された。
理由があるものだと、思ったけど、詩が完成しないから、描けない。
真っ当な理由だ。
まるで職人のようだ。
よし。ボクもハルカみたいに、書こう。
部屋に散らばっている紙を数枚、手に取る。

「あーダメだよーん。もう全部、捨てるんだから」

驚いた。
部屋を埋めつく原稿用紙は大切な物と思っていた。
未完成だけど、詩の表現や言葉はとっても綺麗だ。
捨てる?
無にする?
とんでもない!

「ボクにくれない?欲しいんだ」
「続きを書くの?」
「うん。駄目?」
「始まりが私で、終わりがミノル君、それで良いの?最初から最後まで、仕上げたくないの?」

ハルカの言葉は重く、のしかかる。
詩を書くという事は、そういう事だ。
ボクは中途半端な所からスタートしようとしていた。
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