鼓動より速く

2.五秒

布団を畳み、ベランダに出た。

ひんやりする空気が、パジャマを貫通して肌に刺さった。

瞬時にガラクタがざわめき、キュとなるのを感じたが、不思議と心音は乱れずに済んだ。


おそらく、この景色が心臓を落ち着かせているんだろう。

ベランダの先には、日が昇っていない街が広がる。

街には薄い霧が覆い、地平線からは、太陽のカケラが顔を覗かせていた。

平凡な景色だが、何度、見ても飽きない。

家がこの辺で1番高いマンションの最上階だから、かもしれない。


けど・・・たぶん・・・この感動は誰にも分からない。


ボクだけが、抱ける感動だ。
ガラクタを抱え込んだボクだけが・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


少し、暗い事を考えたが、すぐに考える事を止めた。考えても仕方ない。諦めてるという訳ではなく、単に仕方ない。


気分を入れ換えるため、ベランダのアルミ柵に寄り掛かる。
冷たく、鋭い刃物に触ったような痛みが走る。


本当は、気温が低い屋外に、こんな薄着で出てはいけない。
冷たい柵に寄り掛かるなんて、自殺行為だ。

だけど、ボクは寄り掛かる。
死にたい訳ではない。
ボクなりのリハビリだ。
ガラクタが少しでも、壊れないようにするために。

柵に寄り掛かって、間もなく。
ガラクタが叫び始めた。


トクン。トクン。トクン。


案の定、心音は速くなる。


「やっぱり」


情けなくなる。
ガラクタは相変わらず、ガラクタだ。
成長も改善もされていない。

ボクは、ため息を吐き、自分のため息が白くなるのを確認して、部屋に入った。



部屋に入ると、ガラクタは落ち着いた。代わりにボクが苛立った。


「本当に何も変わらないんだ」


本音を言えば、苛立ちはすぐに消えた。悲しみがボクを包んだからだ。
ガラクタは相変わらず、ボクの気持ちに正直だ。
深い悲しみに、反応して、また心音を速める。
直ぐさま、ボクは黒いジャージを着た。
お気に入りで薬なんかより、ガラクタを落ち着かせる効果がある。

それを着込むとジャンパーを着て、そ〜っと、リビングに出た。リビングのテーブルには、カプセルが入った瓶と、ペットボトルの水が置いてある。
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