青いリスト
拓也の鼓動は早くなっていた。再三に渡ってアナウンスは繰り返された。
こんな田舎の始発で、乗客の中に医者なんて居るはずもない。
そんな事より電車を走らせて山を越え、次の駅に救急車を待機させる方が合理的ではないか…
さっきまで他人事だった拓也は何故か自分の事のように考え苛立ちを覚えた。
後ろを覗き込んでいた乗客が一人、一人と元の席に着いた。
[何も出来ないくせに見るだけ見て終わりか…野次馬め…どうせこの話は今日一日分の話のタネにでもなるんだろう]
周りの気持ちとは裏腹に拓也は自分が医者ではない、何も出来ない無力感に侵されていた。
[あれは…心臓やな]
[そうやな狭心症か最悪心筋梗塞だろう…かわいそうに…]
そんな会話が聞こえて来た。
頭は昔の記憶を辿っていた…
[心肺停止した場合は…心臓マッサージ…やり方は…]
居ても立ってもいられず後ろの車両に走った。
周りを野次馬の人間が囲んでいた。それを強引に掻き分け、急病人を見た。
[お医者様ですか?]
一番近くに居た車掌は救いを求める顔で拓也を見た。
だが、拓也には聞こえていなかった。
[目視]
高齢の男性が仰向けで横たわっていた。
[呼吸音]
老人の口元に耳を当てた…呼吸はしていない…
[脈拍]
は老人の脈に親指を当て心臓に耳を当てた…
拓也は一言一言、規律を守るように声を出しながらテキパキと急病人を調べた。
[これは…心臓が停止している]
拓也は両手を重ねた…
[確か…この当たり…]
拓也の両手は老人の心臓を捜し当てた。
その時、ふと我に帰った。
車掌は拓也のテキパキした行動を見て医者だと思っているのか、何故もっと早く来てくれなかったという蔑みの目で拓也の方を見つめていた。
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