青いリスト

［いえ、私も仕事中なので…］
先程まで卑屈な笑顔で接していた店長が真顔になった。
それは動物が獲物を狙う極めて真剣な表情だった。
獲物とは紀子である。
店長は紀子から発する言葉を一語一句聞き漏らすまいと耳を研ぎ澄ませた。
少しでも中傷的な言葉や、店側としての限界を超える要求を待ち構え、スキあらば［もう二度と来ないで下さい］と言うつもりだった。
目の前に座る一人の客より、その客のせいで、ストレスを感じている店員の方を優先したのだ。
対して売上も上がらなく、テーブル席に長時間居座られ、さらに店員の士気も低下させられる事は、店側にとっては合理的な正論である。
［飲めないの？じゃぁ前何故飲んだの？それなら最初から飲まなければいいじゃない…それから前ほかの客と飲んでいたのを見たよ…私じゃ駄目なの？］
［確かに何回か、頂いた事はあります。但しそれは、他の人に迷惑をかけない方に限ります］
［迷惑？私がいつ迷惑をかけたの？私は毎日来ているけど誰に迷惑をかけたの？］
店長は大きく息を吸い込んで結論を述べた。
［はぁ…はっきり言わせていただきますと、あなたは用事もないのに、そこのボタンを押し、店員を呼び出し、話し相手をさせていると店員から多数の苦情を聞いております。これは業務妨害にあたる事由として私は判断しております。ルールを守れないお客様はお客様ではありません］
店長は言い切った。だが紀子には分からない］
［業務妨害って…そんな事、誰も言わなかったし、どこにも書いていないじゃないですか？］
紀子の言う事も確かに正論である。店長はそれに怯まず静かに答えた。
［確かにそのような事はどこにも記載しておりませんし、店員にもきちんと教育していませんでした。ですが、他のお客様は守ってくれております。店と客との暗黙のルールとでも申しましょうか…］