ブルー・フィールド
4月の始め。この時期の水泳部はまだ筋トレを中心とした陸上部みたいなもの。
プールサイドに上がると、目の前に広がるのは、これからの水泳生活に期待をさせる様な、太陽の光りがキラキラと水面に反射する、といったロマンティックな光景ではなく。
昆布やワカメの自家栽培でもしているかの様な、どこかの山奥の池並に濃い深緑のプール。
水泳に慣れた人間には、当たり前の光景ではありますが。
しかし、本来いるであろう、水泳部員の姿が見えない。
「もしもーし、誰をお探しですか?」
不意に後ろから女の子の声が聞こえる。
「ん? っとあれ?」
振り返るとそこには寺尾由美とあーちゃんと呼ばれていた女の子がジャージ姿で立っている。
「やっぱり浅野君、水泳部に入るんだね」
寺尾は嬉しそうな笑顔で言ってくるが、やっぱり、といわれる意味がつかめない。
「昨日、聞きそびれたんだが俺の事を知っているのか?」
どうやら寺尾の中では俺は知り合いらしいが、こんなに可愛い子なら俺が忘れるわけが無い。
「え? ひどくない?」
そう言ったのは寺尾ではなくあーちゃん。
つかあーちゃんって本名何?
「あーちゃん、仕方ないよ。えっと、浅野君、北中出身でしょ。私は中1の時北中だったんだよ」
……記憶を辿る……
「1年の時に同じクラスだったのか?」
それくらいしか思いつかないが、どうやら寺尾の顔を見るとはずれらしい。
「一応私も水泳部だったんですけど?」
寺尾は不機嫌な顔で答えを教えてくれた。
「そうか、それは悪かった。けど、あの当時は一年生だけでも50人以上いたからな。許せ」
俺のいた北中は県下一のマンモス中学。
学年15クラスに各クラスが35名ほど。学年で520人前後いたことになる。
オリンピックの影響からか、水泳部はやたら人気があり、入部希望者は全部活中一番多かった。