ブルー・フィールド
その後、続々と集まってきて、寺尾もあーちゃんと一緒に店に入ってきた。
「おはよう、浅野君。ちゃんと起きてたね。エライエライ」
「保母さんがあやしてるんじゃないんだから」
「え? ダメだった?」
「ダメとかじゃないけど。どっちかっていったら、寺尾があやされる方に見えるんだが」
「昨日から私の事、子供扱いばっかりじゃない?」
「昨日から、というか、産まれた頃からだけどな」
「産まれた頃はみんな子供ですよ〜だ」
いや、そのツッコミはちと変化球だろ。
県営プールまでのバスの中、昨日の仲直りの成果か、いつも通り寺尾やあーちゃんと向き合いながら雑談をする。
「ところで、あの大塚って子は何に出るの?」
そういえば、その話はしてなかったな。てか、水泳部員同士なのに、専門種目に興味がいかないってどうよ?
「大塚の専門はバッタだな。そこそこ早くて、市大会は100で優勝、地区大会は200で3位表彰台とかあったし」
気になる女の子ならまだしも、大塚の個人記録をそこまで覚えている自分が凄い、と思う。
「よく覚えてるね?」
……やはり寺尾もそう思ったらしい。
「なんか優勝したらご褒美がどうとか言って、おねだりして……あ!」
すっかり忘れてたが、1500m完泳したら、寺尾にデートしてもらう約束したんだ。
「あって何?」
知らないあーちゃんが聞いてきたが、ここは黙っておくべきだよな。
「昨日の浅野君みたいだね」
寺尾! 余計な事言っちゃダメ!
「ん? 浅野君も何か言ったの?」
あーちゃんが気付いたらしい。
「うん、浅野君がね、1500m泳ぎ切ったら、私と遊びに行こって」
ジーザス! 神よ……無宗教だけど。あ、無宗教だから罰が?
「へ〜浅野君もやるわね」
あーちゃんがニタニタと井戸端おばちゃん笑顔になる。
「なあ、寺尾さあ、空気って読める?」
「空気は吸うものだよ?」
「いや、流行語にもあったでしょ? KYって」
「あ! そっちの。うん、分かるけど……今?」
ハハハ、どうやら寺尾にはこれが日常らしい。
困ったもんだ。