ブルー・フィールド
 
 英語の勉強が山場を迎える頃、階下から母村山の声が聞こえてきた。

「皆さん。ご飯できたわよ」

 え? ご飯って?

「さすがに、夕食までいただくのは悪い気がするが」

「そうよね」

 俺の言葉に、珍しくあーちゃんも同意してくれる。

「え? 今夜は昨日から煮込んだカレーなのに」

 その言葉を聞いた途端、あーちゃんからは先程までの遠慮が消えた。

「一日おいたカレー……」

 ダメだ。魔法の言葉を掛けられて、トリップしている。

「どうする? 浅野君」

「寺尾も一日おいたカレーに目が無い派か?」

「う……そう言われると否定できないけど……」

 妹北田は聞くまでも無いことだろう。

「まあ、それならご馳走になろうか」

 一階へ降りる階段では、皆浮き浮き顔だ。

 恐るべき『一日煮込んだカレー』の魔力。


「浅野君はここに座りなよ」

 村山にそう促され、椅子に座る。

「はい、どうぞ」

と母村山がカレーを並べてくれる。

「ところで村山家では、カレーには何をかけるんだ?」

 カレーにはソースと決まっているが、中には醤油をかける人もいる。

「カレーには醤油って決まってるでしょ?」

 あーちゃん家は醤油派ですか。

「うちはソースだぞ」

「え? 浅野君の家、そうなの? ウチも醤油だよ」

 妹北田もそう言ってくる。いやいや、レストランでも置いてあるのはソースだろ?

「寺尾の家もか?」

「私は……辛いのダメだから甘口カレーをそのまま……」

 見た目だけじゃなく、味覚までお子ちゃまな訳ですね。

「ということで、多数決で醤油に決定ね!」

 なんで多数決で決める? それぞれ好きなものをかければいいだろ。

「多数決って……僕は?」

 あ、村山の意見は遮られたままだったな。

「意見を言うと言う事は、それなりにボケれるんだよな?」

「何で? ボケなきゃダメなの?」

 当たり前じゃないか、ボケこそ人生。

「えっと、あの……」

「それじゃあいただきますか」

と、村山にボケは期待していないから、そのまま食べ始めた。

「ならボケろとか言わないで!」
 
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