ブルー・フィールド
「明日は浅野君が一番期待されてるよね」
ここ数年、羽鳥高校水泳部では入賞実績がなく、藤木先生が俺に長距離をやらせたがるのも分からなくもない。
「しかし寺尾にも、市大会なら可能性はあるぞ」
女子の有力5校の内、2校は市外にある。
単純に考えても、上位4人が参加しない。
「う〜、そんな〜。プレッシャーだよ〜」
小さい身体をますます縮めるように呟く寺尾。
「大丈夫。寺尾ならできるって」
そう言いながら、ついつい頭を撫でてしまった。
「ちょっと〜、子供じゃないんだから」
「すまんすまん。何となくこれをやるのは男の浪漫だったりするからな」
と全国3000万人の妹萌えの気持ちを代弁してみました。
「これが浪漫なの?」
不思議そうに聞き返してくる。
「まああまり深く考えるな」
ついつい出てしまった本音に反応されると対応に困る。
「私ってそんなに子供っぽいかなあ?」
自覚がないのか? まあ背伸びしたがる年頃だから、自覚はないか。
「いや十分大人っぽいと思うぞ。年齢とか実年齢とか満年齢とか」
「年齢ばっかじゃないよ〜」
ちょっとふて腐れ気味に言うが、精神年齢や肉体年齢が含まれていないことには気付かなかったみたいだ。
「お待たせ」
妹北田と何やら話しをしていたあーちゃんが合流してきた。
「なに? 浅野君の不服そうな顔は」
「誰も不服だなんて思っても口には出さないさ」
なんて大人な対応。
「つまり口に出さない分、顔に出すってことね?」
お? 言われてみれば、そうなるかもな。
「何の話ししてたの?」
二人の掛け合いには興味が無いのか、寺尾は話しぶった切りで聞く。
「今度の海の話しよ」
あーちゃんは簡単に答えながら、向かいの席にどっかりと座る。
「でも海の話しなら、ここでしても問題無いはずだが?」
多分、男の俺には聞かれたくない部分もあるんだろうけど。
「たいした事じゃないから」
たいした事じゃないなら、尚更向こうで話さなくてもいいと思うぞ。