ブルー・フィールド
 
「寺尾さん。さっきはごめんなさい。別に悪気は、無かったとは言い切れないけど、今は反省してるから」

 一気に喋り終えると、頭を下げる。

 寺尾は俺を見、先輩を見、どう返事をしていいか分からない様子だが。

「寺尾さん。大塚さんも、普段はあんな事を言わないのよ。ただ、多分、嫉妬かな? 勢いで言っちゃった感じだから」

 嫉妬? 大塚が何を嫉妬するんだか。

「あの、ほら、寺尾さんって可愛いから。私は、ね」

 いつもハイテンションでも、やはり大塚も女の子。見た目は気になるよな。

 思春期なら尚更だ。

「ううん。いいよ。それに、純子ちゃんの言った事もホントの事だし。私ももっと頑張らなくちゃいけないんだし」

 寺尾はそう言って、大塚を真っすぐ見つめる。

「ありがと。そう言ってもらえて、嬉しい」

 そう素直に喜ぶ大塚。そういう素直なところは、相変わらずだな。

「浅野君もいいわよね?」

「あ、はい。俺はもともと何かあった訳じゃないですし」

 俺が怒鳴ったのが発端ではあるが。

「じゃあ仲直り、という事でいいわね」

 さすが先輩というか、同じ仕切りでも、あーちゃんとはえらい違いだ。


 その後、しばらくは今日の大会の話をしていた。

 やはり桜坂は名門らしく、藤岡先輩も言い方は悪いがお情けで今日の100mに出れたらしい。

 一年生からの三年間、個人では今日の100mが唯一の出場だったとか。

 明日はリレーもメドレーリレーで、藤岡先輩の出番はなく、実質、今日が引退レースとなる。

「けど三年間好きな水泳ができたから、それだけでもよかったわよ」

 藤岡先輩もうちの部と同様、タイムは二の次。

 泳ぐのが好きで水泳部にいたタイプなんだな。

 だからこそ、寺尾も大塚も、こんなに慕っているんだろう。

「それじゃあ先輩。私はお先に」

 ん? 大塚は帰るのか。

「そうね。あまり遅いと危ないし、気をつけてね」

 大塚は3人に軽く頭を下げると、店を出ていった。
 
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