ブルー・フィールド
「それで寺尾さんの事をあまり覚えていないの?」
「いや、いたのは覚えていましたけど。そんなやり取りがあったのは、ちょっと」
「へえ。じゃあ顔は覚えてたんだ?」
先輩に言われて、改めて寺尾を向いて考える。
「え? なに? なに?」
思い切って眼鏡に手をかけ、外してみた。
「ダメだよ。何も見えなくなっちゃん」
何でジュースに、しかも商品名になるのか不明だが、今はそうじゃない。
「確かに見覚えがありますね」
「なんで? いつもプールで見てるでしょ?」
いや、いつも見てはいるが、視線がついつい露出している肌や水着で隠されている部分にいってるなんて事は、たまにしかない。
「いや、そうなんだが。あの頃を思い出して見比べるなんてしてなかったし」
実際、今が可愛いから、それで満足……はい、バカです。
「昔の寺尾さんにはそんなに魅力無かったの?」
あれ? 先輩? その質問は何故?
「いや、魅力とかなんとか……」
うちの部の先輩達みたいに囃し立てる言い方ならまだしも、藤岡先輩の柔らかい口調で聞かれると、答えを濁しにくい。
「えっと……あのですね。可愛かった……ですよ」
本人を隣にしてこんな事言わせるなんて、先輩はS属性か女王様気質だな。
その隣の寺尾は、恥ずかしさから、顔を上に上げられないみたいだ。
俺も相当恥ずかしいんだが。
「あら? 過去形なの?」
ちょっと! まだ追求する?
「いや、あの、それは……」
何か最近この展開多くないか?
絶対、神か悪魔か作者の陰謀だよ。
ふと気づくと、寺尾の右手が俺のジャージの裾を引っ張っている。
これは恥ずかしさの合図か、答えを期待する行為か?
先輩の視線は優しいながらも、ボケを許さない恐さを秘めている。
ええい! こうなりゃヤケだ! 例え衆人環視の喫茶店の中だろうが、言い切ってやる!
「そりゃあ今はその……」
と思ったけど、やっぱ無理! 普段の俺のキャラと違う!