ブルー・フィールド
昨日と同じ様に、スタンド上部に陣地を構築する。
「さて、着替えに行くか」
兄北田の合図で揃って更衣室へ向かった。
着替えの最中、昨日と同じく、声を掛けてきた人物がいた。
「弘樹さん、おはよっす!」
振り返ると、そこにいたのは南中の三年生、板橋勝志(15歳・独身子無し)だった。
「なんか注意書きおかしくないっすか? 普通こういう時は専門とか書いてくれるでしょ?」
「ん? 多分みんな興味ないから別にいいだろ」
「ひっでー! 相変わらず男の扱い酷すぎ」
と言いながらも大きく笑っている。
「浅野君の知り合い?」
隣でもぞもぞと着替えていた村山が聞いてきた。
「ああ。親父の古い知り合いの息子だ。俺も多少知っているらしい」
実際に会ったのは正月以来だから、半年ぶりかな。
「多少って何すか。幼馴染くらい言ってくださいよ」
「可愛い女の子ならまだしも、男の幼馴染なんて要らん!」
「相変わらずひでー」
と言いながらまた笑っている。
これだけいつも笑っているやつが、怒らせると手が付けられないとは、初対面には分からないだろう。
「で? わざわざ朝の挨拶しに来たのか?」
そうでない事は分かっているが。
「そうそう、今朝、うちの部員が世話になったらしいっすね。すみませんでした」
そう言って深々と頭を下げる。
「今朝? 何のこと?」
事情を知らない村山が尋ねてくるが、一々説明するのも面倒だな。
「まあ世話焼いたってだけだ。特に何もしてない」
「またまた。ホントそういうとこ、変わんないっすね」
「どうでもいい事は直ぐ忘れたい性質なんだ。それより勝志は今日は何に出るんだ?」
板橋は基本的にはバックをやっているが、それも専門とは言えない。
フリーとバックで、その都度、出場枠に合わせて変えている。
「今年はバック一本っす! なんたって大河原がいないんすから」
ここでも大河原かよ。
まあ大河原がいる以上、バックの1位は決定しているからな。
今年はその指定席が空いたし、入賞枠も一つ増えたわけだ。