ブルー・フィールド
男子200mフリーが始まる頃、アップに行っていた由美が戻ってくる。
「ちょっとおいで」
手招きすると、ぽけーっとしながら隣に座った。
「昨夜、寝てないのか?」
確かめなくても聞いているが、まあ普通はこう聞くだろう。
「ん〜ちょっとだけ遅かったかな?」
なにがちょっとだ。
「あーちゃんに聞いたぞ。2時過ぎまで起きてたって」
「え? あーちゃんそんなこと言ったの?」
まさか言われると思ってなかったのか、驚いている。
「あーちゃんだって寝不足みたいだからな。皆気にするさ」
「そっかぁ、ばれちゃったんだ」
そう笑ってる顔に生気が足りないと思うのは、寝不足だと知っているからなんだが。
「ごめんな、まさかそうなるとは思わなかったから」
心底申し訳ないと思い、頭を下げる。
「いいよ。私が、その、嬉しかったし。だからあさ……ひろくんは気にしなくていいの」
そうは言っても、やはり声に元気がないと感じてしまう。
「多分呼び出しがあるまで1時間はあるだろうから。それまでゆっくり横になるか?」
寝起きに水泳というのは身体に悪いから、実際には30分程度になるだろうが。
「ん、その方がいいかな?」
「ああ。せっかくの大会だし。どうせなら、力一杯泳ぎたいだろ」
「うん、そうだね。それなら、ちょっとだけ、ね」
そう言ってあーちゃん達一年女子の方へ向かっていった。
「寺尾、さん、大丈夫、?」
近くにいた高橋が気にして話しかけてきてくれる。
「ん〜、どうかな? よっぽど事故には繋がらないと思うけど。レースの方は、ちょっと厳しいかな」
いくらなんでも寝不足の体調でいいタイムが出せるほど甘くない。
「その分、浅野君が、がんばら、ないと」
言われるまでも無く、それは痛切に感じている。
「よっし。今日はとにかく頑張る!」
気合入れていくか!