ブルー・フィールド
 
 少し休んで多少は体力が回復したから、プールから上がる。

 コース脇まで行き、6コースのゴールを見守る。

 6コースのタイムは20分16秒で、これもレース前の会話よりかなり早い。

 計測器の故障とはツイてないが、それは言っても仕方ない事か。

 プールサイドを後にし、陣地へ帰る途中、5コースの選手が話し掛けてきた。

「君、凄いね」

 レース前とは違い、爽やかな口調だ。

「いえ、1位なんて偶然ですよ。それにしても、タイムが分からないのが、残念と言うか」

 すると5コースは首を捻る。

「タイムは出ていただろ? 君も見ていたと思ったが」

「いえ、故障してるみたいですし、正確には分からないでしょ」

 すると、またまた首を捻る。

「故障? あのタイムじゃ遅いと?」

「その逆ですよ。俺があんなタイム、出るはずないですから」

「そうなのかい? てっきり君もベストを遅く言っていたと思っていたんだが」

 話しが見えん。何を言いたいんだ? この人は。

「4コースの彼に腹が立って、わざと遅いベストタイムを言って、油断させたんじゃないのかい?」

 そんな捻くれた作戦を立てる程、複雑な回路は組み込んでないんだが。

「えーと、つまりあなたのホントのベストは?」

「僕は、16分30秒がベストだよ。今日は君に引きずられて、前半飛ばしすぎたから、ラストが遅くなったけどね」

 ……どういう事だ?

 5コースの言葉を信用すれば、俺のタイムは練習より2分近く早いタイムだぞ?

 県予選以来の練習では、アベレージで18分20秒くらいだったのに。

 しかし、この5コースの爽やかな口調は兄北田と違い、怪しさが無いから信用してしまいそうだが。


 不思議な感じで、陣地への通路を歩いていると

「ひーろくん!」

と呼ぶ可愛い声。

「あれ? 由美、どうした?」

「先輩達が、お迎えにいってらっしゃい、って」

 何だか俺と由美は先輩達にどう扱われているのか、イマイチよく分からない。
 
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