ブルー・フィールド
陣地への帰り道、由美は興奮しながら話してくる。
「ひろくん、凄かったよねー」
「んー、何が?」
実感が無いから、何となくそう問い返す。
「え? 何がって何が?」
「いや、だから、何が凄かった?」
「だって、1位だよ。それもベスト出したんだし」
たしかに傍から見ればそうなんだが。
「いやな、そのベストがイマイチ信用できないんだが」
俺の言っている意味が分からないのか、由美ははてな顔をする。
当事者じゃないから、分からなくても仕方ないか。
「どう考えても、俺が16分台を出せる訳がないだろ」
「そう言えば、ベストタイムっていくつだっけ?」
「それすら知らずに、ベスト、ベストと興奮してたのか?」
さすがは天然ボケと言われるだけはある。
「だって〜あーちゃんが言ってたから」
まあマネージャーがベスト出た、と言えば信用するが。
「今までが18分20くらいだぞ。いきなり16分35とか有り得ないだろ」
素人ならいざしらず、水泳部、しかも同じフリー選手なら、距離の違いはあれど、感覚的に分かるだろう。
「すっごーい。2分以上も縮めたんだ〜」
えーと、どうやってツッコミますか。
「なあ、由美は引き算って知ってるか?」
「ちょっと〜。いくら理系は苦手でも、引き算くらい出来るもん!」
出来てないから聞いているんだが。
「18分20から16分35を引くと、1分45という時間が出るんだが」
「……」
一生懸命暗算をし始めた。
「……」
無言で俺に恥ずかしそうな視線を送る。
「まあ四捨五入すれば、2分でも間違いはないからな」
一応慰めますか。
「も〜そんなにバカにしないでよ〜」
あれ? フォローになってなかったか。
「バカになんかしないさ。これ以上バカになられたら困るからな」
「赤点取ってるひろくんに言われたくありませんよーだ」
うん、それは俺も同じ気持ちです。