ブルー・フィールド
1500mも終わり、女子800mフリーと個人メドレーが終わると、個人の決勝になる。
「そう言えば、あの桜坂の子も決勝に出るんだな」
さっきの様子からすれば、言わない方が良いかもしれないが。
「大丈夫。もうあんな事は無いから」
そう言う由美の表情は、いつも通り明るい。
「そうそう。それなら余裕で入賞してこれそうだな」
「う〜そんなプレッシャー、かけないでよ〜」
と、表情が硬くなる。
由美にとっては、水泳経験上初となる決勝進出。
プレッシャーもハンパないのは、経験者だけによく分かる。
「そりゃひろくんは無神経だから、プレッシャーとか感じないんだろうけど」
……あの、一応あなたの彼氏なんですが?
個人メドレーが中盤に差し掛かり、決勝進出者に集合のアナウンスが掛かった。
「ん。出番みたいだな」
由美を見ると、相当緊張しているのか、甲羅に閉じこもった亀みたいに身体を小さく丸めている。
「ほら、元気だして。犬好きが猫背はみっともないから」
そう言う俺も、犬好きの猫背だが。
「犬好きと猫背は、あんまり関係無い気がするんだけど?」
あんまりじゃなく全然関係無い、だがな。
「そろそろ行く時間だよー」
あーちゃんに声を掛けられ、由美が立ち上がるので、俺も釣られて立ち上がる。
「控えのベンチまで送っていこうか?」
「そんなとこまでいいよ〜。子供じゃないんだから、一人で行けるよ」
「そうか? 俺としては保護者気分何だが」
「はいはい、イチャイチャはいいから、早く行く」
何だよ、せっかくボケてリラックスさせようとしてんのに。
「浅野君のボケを相手してたら、200m泳ぐより疲れるからね」
おいおい、そんなには疲れないだろ。
特に由美は天然ボケで返すから、こっちが疲れるくらいだ。
「あーちゃんは200m分で済むんだ。私は1km分くらい疲れるよ」
……いや、だから、一応彼氏なんだから、もうちょっと気遣ってもらえません?