ブルー・フィールド
皆が立ち去った後、兄北田は手に持った缶ビールを差し出してきた。
「浅野は相変わらず強いな」
そう言って自分の分の缶ビールを開ける。
「先輩だって強いっすよ」
俺も開けると、一口飲んだ。
「まずは入賞、ご苦労さんだったな」
「いえ。たまたまと言うか、運が良かっただけですから」
人数もさることながら、メンバーにも恵まれていたと思うし。
「バーカ。悪いタイムで入賞したんなら運だろうが、入賞して当たり前のタイムを出したんだ。運だけじゃないだろ」
そう言われても、100mや200mならまだしも、1500mはイマイチ感覚が掴めていない。
泳ぎに関してもそうだし、タイムに関しても。
「寺尾もよく頑張ってたしな。正直な話し、そこそこいい線はいけるが、入賞はキツイと思ってたからな」
それは多分、身体の線の細さがそう感じさせるんだろう。
スポーツマンにとって、恵まれた体格は絶対条件とまでは言わないが、必要条件の一つ。
何でもかんでもでかけりゃいい訳でもないけど、由美の場合はいろいろと小さすぎる。
「やっぱり俺達としては、先生に恩返しはしたかったが、まあ2人が入賞してくれて、とりあえずホッとしたところだ」
「恩返し、ですか?」
そう言われてみて考えると、やはり練習を見てくれている顧問に対して、一番の恩返しは大会での栄誉=入賞、になるか。
中学時代は反体制派だったから、そんな事は思いもしなかったが。
「恩返し、ともう一つ。これはお前達一年生には関係無いけど、何て言うか、罪ほろぼしって言うのかな」
恩返しは理解できる。
それは俺達の入賞は全てが自力ではなく、先輩達の指導や皆の協力、応援があっての事だから。
だが、罪ほろぼし?
「これから話すこと、寺尾はもちろん、他の一年生や藤木先生には内緒にしてくれ」
兄北田は、いつもと違い、真剣な口調になっていた。