ブルー・フィールド
 
「もしかして、やり逃げ、ですか?」

 何となくだが、会話の流れから、そう予想される。

「まったく。浅野は勉強は出来ないくせに、そういうところだけは察しがいいな」

 だから! 一言余分だって!

「もともと伏屋は下中を好きだった訳じゃない。単に女とやりたかっただけだったんだ。まあ噂が流れた頃には、やっちまってたらしいが」

 さすがの兄北田でも言いにくいらしく、語尾は小さな声になる。

「それでも下中の方は、付き合ってるから許したのに、伏屋は下中に縛られる気は無いから、他の女の子にもちょっかい出していた」

 一年前の話しだからか、兄北田の声音は怒りより呆れの方が大きい。

「そんな状況だから、当然下中は怒るだろ。それが立花先輩や伊藤部長の耳に入って、女子部員から吊るし上げを喰らったんだ」

 部長にしろ、立花先輩にしろ、後輩を弄ばれれば当然の行動か。

「そして、伏屋は逃げる様に退部して、下中も辞めていったんだ」

 騒ぎを起こして、恥ずかしさや後ろめたさがあったんだろう。

「俺達男子は下中が辞める時にその話しを聞かされてな。男子には伏屋を止められなかった、女子には下中を守れなかった、罪悪感じゃないが、そんなあれがあったんだ」

 成る程ね。しかし、身の回りでそんな話しがあるとはね。

 小説やドラマの中ならよくある話だが。

「別にだからといって浅野と寺尾の関係に口出しする気はない。お互いの合意の上なら、しても構わない。ただな、この話をしたのも、浅野を見る限り、バカでもいい加減な事はしないだろうから大丈夫だとは思うが、一応念のため、なだけだ」

 ……これはけなされているのか、信頼されているのか?

「あれ? けど村山は?」

 と、村山と瀬戸先輩の話は兄北田に聞くのはマズイと、言ってから気付いた。
 
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