ブルー・フィールド
そんな会話をしていると、隣でタイムを計っていた鷲見先輩が寄ってきた。
「浅野君はそんな感じよね」
「そんなって、どんな感じっすか?」
「何か気分がのらないと、全力が出ないタイプみたいだし」
「そうか。練習だとイマイチ気合いが入らない、みたいなタイプですね」
あーちゃんのくせに、先輩相手だから語尾だけ敬語、を使ってる。
「ていうか、皆そうなんじゃないっすか?」
俺の言葉に、二人揃って呆れ気味な反応をするが、何かおかしな事言ったか?
「普通の人は気分で泳いだりしないよ」
「そうよ。練習でも大会でもちゃんと全力出せるの。気分で泳ぐなんて、陽子ちゃんくらいじゃないかな」
「あ! たしかに、三村先輩はちょっと気分屋なとこありますよね」
マネージャー2人で何やら納得しあっているが、俺にはイマイチ理解できない。
「ていうか、勝手に私を気分屋にしないでもらえませんか?」
おわっ! 三村先輩、隣で泳いでいたんだ。
「あ、聞こえちゃった。でもホントの事だしね」
普段通りの声で話してれば、聞こえて当たり前でしょう。
「そりゃ気分でタイムは変わりますけど、気分屋って言われる程じゃないですよ」
それだけで気分屋の素質は十分備わっていると思いますが、まあ、後が恐いから言わないけど。
「でも、気分屋なら気分屋でもいいんじゃないかな。やるべき時にやれるようにしておけば」
なんか、三村先輩が話しに加わったからか、鷲見先輩のまとめ方がキレイだな。
「浅野君なら、そうね。コンスタントに17分前半を出せるように練習すればいいと思うわよ」
あーちゃんと違い、鷲見先輩がいうと、かなり信憑性があるのは、やはり普段の行いの違いだろう。
「分かりましたよ。んなら、もう一泳ぎしてきます」
というか、一日に1500mを何本泳げばいいんだか。