ブルー・フィールド
 
 しばらくすると、藤木先生が水着姿でプールサイドに現れた。

 7月に入ってから、高橋や西岡の指導の時にはプールに入っているが、今日は理由が違うっぽい。

 キャップとゴーグルを装備した、フルアーマーバージョンだ。

「浅野。ちょっと休憩してていいよ。その間ここで泳ぐから」

「先生が? あ、大会に備えてですか?」

 いつもは指導しているだけで、泳ぐ姿は多分初めて見る。

「そうそう。これでもまだ現役だからね。ヘタなレースは恥ずかしいから」

 37歳で現役ですか、すごいな。


 休憩がてらに先生の泳ぐ姿を見る。

 先生の専門はブレストだが、さすがに元国体選手らしく、アップの個人メドレーでは華麗なフォームで泳いでいる。

 水泳部員として、四種目をきちんと泳げるのは見習わないととは思うが。

「浅野君は器用じゃないから、メドレー向きじゃないよね」

「あーちゃんだって、マネージャーとは言え、水泳部員なら、ある程度は泳げるんだろよな?」

 ……お互い、弱点を突き合い沈黙。


 先生の泳ぎを見ながら、一応見取り稽古。

 個人メドレーの場合、バッタ−バック−ブレスト−フリーの順だから、最初のバッタと最後のフリーが俺の参考にする泳ぎになるが。

 さすがに20年程の経験を有する藤木先生だけに、ブレスト以外の泳ぎ方も様になっている。

 バッタでは、手と脚のバランスがいいんだろう、水面を流れるように泳いでる。

「そういえば、先生の大会は応援しに行かなくていいのか?」

「今年は大阪でやるらしいから、行けないよ」

 大阪かあ。

 タコ焼きが美味いよなあ。特にNGK前のタコ焼き屋さんは絶品だ。

「まあ子供達と大阪見物兼ねての旅行みたいだから、いいんじゃない」

 そんなもんなんかね?
 
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