ブルー・フィールド
運ばれてきたイチゴガトーショコラをみんなが美味しくほおばっているのを横目に、俺は一人、コーヒーを口に運ぶだけ。
「イチゴ美味しいわね」
「うん、やっぱり産地直送が一番ね」
由美やあーちゃんたちが話しながら、ガトーショコラを次々に口に運んでる。
妹北田の口の周りには、チョコレートがついている。どんな食べ方してんだよ。
「それにしてもみんなコーヒー飲まないんだな」
なんとなく、ボソッと口から言葉がこぼれる。
「ん? ああ、俺は苦いのはあんまりな」
「いや、馬場には聞いてないし、言ってない」
「おい! 俺はみんなに入ってないのか?」
ちょっと寂しげな馬場だが、男の寂しげな表情なんてキモイだけだ。
「甘いもの食べてるのに、飲み物まで甘いの、とか、ウエスト的にどうかと思っただけなんだけどな」
とはいえ、高校時代なんてそれなりに運動、というよりは体を動かすんだから、カロリー消費なんて特別考える必要もない。
と思ったが、なぜか女性2人、主にあーちゃんと妹北田の手がぴたりと止まる。なんだ、この二人の漫画的対応。テンプレまんまじゃねーか。
「あれ? ふたりともどうしたの?」
ただ一人手を止めずガトーショコラを口に運んでる由美が、あまあま幸せ~という感じで顔をほころばせながら尋ねる。
「い、いえ、別に、ね? 美樹ちゃん」
「そう、よね。ほら…あ、今日はあれ。ん、ちゃんと泳いでるし、大丈夫だよ」
普段いじられてる分、こうして動揺している二人の姿を見るのは気分がいい。って、なんて捻くれた優越感だ。
「大丈夫、美樹たん…」
「誰が美樹たんだ?」
ほう、木田は美樹たんとか呼んでるのか、やっぱキモイな、呼ぶほうも呼ばせるほうも。
「ちょっと! そんあ…そんな呼び方させてないし。ほら、木田くん、ね?」
「そうそう、ちょっとかんだだけだ。うん、そう。かんだだけ」
二人で一緒に否定しようとしているが、まああれだ。
推理小説で犯人が証拠を出せ、というように、ラブコメでは相思相愛の二人が揃って否定するというのは、事実を認める、に他ならないんだが。