ブルー・フィールド
 
「あれ? 高橋はまだ競泳用水着買ってないのか?」

 今季初になる水着への着替え中、高橋を見ると、中学時代に着ていたであろう、スクール水着を履いている。

「うん、まだ、だよ」

 ボソッと言われると、何となく責め立てているみたいじゃないか。

「そっかぁ。あ、じゃあ今日帰りに一緒に買いに行くか?」

 俺も新しい水着を買おう、と思っていたところだったし。

「えっ?」

 何でそんなに驚くんだ? それとも俺と一緒は嫌だってか?

「あ、あの、よろしく、お願い、します」

 別にそんなに畏まらなくてもいいのに。


 プール掃除の時、水は前もって膝下くらいまでは抜いてある。

 全部を抜いて乾いてしまうと、実は掃除が大変な事になる。

 汚れが底にこびりついてなかなか落とせない。

 水位が膝下までだから、ジャージをめくれば濡れない、とも限らない。

 藻や昆布、ワカメ、泥鰌、赤貝、ミル貝、ホタテ、アワビetc……等に足を取られかねないから。

 つまりは上はTシャツにジャージ、下は競泳用水着、と何とも間抜けな服装になる。

 全裸に靴下よりはマシだけど。

 まあそれはそれで、女子高生が……ゲフン! ゴホン!

 着替えを終えてぞろぞろとプールサイドへ上がると、女子はもはやプールの中。

 くっ! 負けた!

「浅野君! 早くしなさいよ!」

 伊藤部長? 俺だけ? 何で俺だけ? 赤点俺だけだから?

「浅野君、早くしよ」

 落ち込む俺には関心の無い村山がタラップを降りて行く……。

「えい!」

『バッシャーン!』

 全身に緑黄植物を巻きつけた村山サンドの出来上がり。

「ひどいよ! なんで?」

「俺が被害者第一号は嫌だからな」

 どうせ掃除中に誰かはこけるんだ。

 笑いもの第一号にはなりたくないし。

『バッシャーン!!』

「おわ? なんで水が?!」

「村山君に手を出すとはいい度胸してるわね」

 怒りの瀬戸先輩が、バケツを片手に睨んでる。

 コワッ!
 
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