ブルー・フィールド
「で? 浅野は水泳部へ入るのか?」
中学時代に始めた水泳。
特に水泳の才能がある訳でもなく、また、女子の水着姿に見とれたとかでもない。
ただ単に他人と同じようにできるスポーツが水泳だけだった、という単純な理由で選んだにすぎない。
「まあそうだな。その為にここを選んだんだし」
もっと地元に近い別の高校でも、成績だけをみれば合格確率は高かったんだが、生憎そちらには水泳部どころかプール自体が無い。
「んで、木田はどうするんだ? 一年生は強制入部らしいが」
木田は中学時代は体操部にいた。
こちらは俺と違い、ハイレグレオタードに釣られて……正確にはその幻想に釣られて……入部しただけだが。
新体操ならまだしも、普通の体操部にハイレグはないだろ。
「俺はどこか部員の足りない文化系の部で、幽霊部員でもやるさ。バイトしたいし」
いきなり幽霊部員宣言とは失礼な奴ながら、だいたいの奴らがそんな感じなんだろう。
進学校と言えば聞こえはいいが、他に特色が無いだけ。
体育会系の部にしても文化系の部にしても、何らかの賞をとるほど有名な部は無い。
かと言ってグレートな教師が荒れたクラスを立て直すマンガのモデルになる様な不良高校でもない。
良いのか悪いのか、人畜無害な大人しい生徒が集まる学校らしいからな。
『次は終点の〜』
車内アナウンスが降車駅を告げてくれる。
学校前の駅から特急で45分。
鈍行なら1時間15分かかる。
「ちょっと遠すぎたよなー」
特に学校選びにこだわりの無かった木田に、この高校を薦めたのは俺だ。
理由は簡単。知り合いがいないのは寂しいから。
「でも帰りに駅前に寄れるのはいいんじゃないか? バイトするなら尚更だろ」
寂れたとは言え、県庁所在地になる市の駅前。
高校生のバイト口なら、探すのにさして手間はかからない。
「でもよ。ここから家までまだ30分かかるんだぜ」
「30分なんてCD一枚分も無いんだ。近い、近い」
「シングルなら3枚分じゃねーかよ」
ああ、木田はアルバムよりシングル派だったな。
特に覚えておく必要もないが。