ブルー・フィールド
翌日、午前中のオリエンテーションを終わり、昼休みに入る。
母親に作ってもらった弁当を広げると、目の前に一人の男子生徒がやってきた。
「あの……浅野君、だよね?」
確認する、ということは、多分知り合いではないんだろう。
「そうだが、君は?」
そいつの顔を見てみるが、俺の記憶の中には、この顔は残っていない。
「あ、あの、僕、第三中学の村山だけど、覚えてないかな?」
はて? 第三中学とな。
第三中学は俺の通っていた北中からは遠く離れている。
当然知り合いなどいないが。
「スマンが思い出せない」
知らない物は知らないとはっきり言った方が良いだろう。
昨日、寺尾には濁したが、それはそれだ。
「だよね。僕、影薄いし」
いや、そんな事は言ってないし聞いてない。
第一、野郎には特に興味は無いから、軽く話した程度の知り合いなら忘れてしまう。
「浅野君って、去年の市大会で三位入賞した浅野君でしょ? 僕、その時に隣で泳いでいたんだけど」
去年の市大会、と言えば中学三年の時だよな。
俺は中学二年生には第二次成長期を80%終えており、残りは脚が伸びるのを待つだけだった。
結局そのまま出撃し、ラストシューティングされるんだが。
って、そんなア・バオア・クーではなく!
成長が早かった分、他の生徒よりもタイムは速く、市大会レベルなら入賞するのは、さして難しくなかった。
しかし、隣で泳いだ、と言われても、水泳の大会は密集しており、ぶっちゃけ、どのレースがどの大会のレースかは区別がつかない。
「そうだったか。それで何だった?」
一緒のレースをしただけで話し掛けてくる訳ではあるまい。
「あの、浅野君は高校でも水泳部に入るの?」
俺が何部に入ろうが関係無いと思うが、聞かれて答えない理由も無い。
「一応そのつもりでいるが」
その為にこの学校を選んだんだしな。
「じゃあさ、今日一緒に水泳部見に行こうよ」
ま、断る理由もないし、一緒に行くのに人を選ぶ理由も無いしな。