ブルー・フィールド
 
 50mの競泳用プールには、観覧用のスタンド席が設けられていて、各校の陣地はこのスタンドに設けられる。

 ひさしが付いているから雨よけはいらないが、6月だとちょっと肌寒いかな。

「今日はこの辺にしましょう」

 伊藤部長はスタンドの上部に陣地を取るつもりらしい。

「どうせ前の方は市立商業の陣地になるからな」

 市立商業……県内一のスポーツ高校。

 商業高校なのに、スポーツ推薦で進学する生徒が多いという、一風変わった校風を持つ。

 当然、水泳も強く、IHを始め、全国大会に出るのはこの学校の生徒ばかり。

「市立商業か、そういえば俺も誘われたな」

「え! 浅野君、勧誘されたの?」

 寺尾が驚いている。大袈裟だなあ。

「ああ。寺尾は覚えているか? 同級生に大河原ってのがいただろ。そいつが……」

「大河原ってあの大河原?」

 あーちゃん、人の話は最後まで聞きましょう。

「そう。で、県大会のメドレーリレーで一緒に泳いだんだけど。どうやらそのチーム4人に声を掛けたらしい」

 ちなみにリレーの成績は3位。

 リレーメンバーで、個人では俺だけが賞状を貰えない4位だったのが、情けないっちゃー情けない。

 大河原は背泳ぎのエリート選手。

 父親が水泳の国体選手で、幼少時から英才教育を仕込まれ、県内ではバックの第一人者。

 高校生でも大河原に対抗できるのは、全国出場選手くらいのものだったらしい。

「でも、それなら何で一緒に市立商業へ行かなかったの?」

「ん……」

 あーちゃんの疑問も、まあもっともと言えばもっともか。

「聞いちゃまずい事かもよ」

 そう気を使ってくれる寺尾の優しさには涙が出るが……。

「大した事じゃない。市立商業って男子校じゃないか。女子のいない高校生活なんてまっぴらだからな」
 

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