ブルー・フィールド
 
「はい。それじゃあフリーから順にアップ行ってー」

 あれ? 藤木先生いつの間に? しかも手ぶら?


 この会場でのアップはサブプールで行う。

 サブプールは屋内の温水プールで、25mプール。

 通常時は一般に開放されている。

 メインプールとは違い、出来たのはまだ10年程前だったか。

「じゃあ先に行ってるね」

と寺尾と共に兄北田、村山、立花の4人がサブプールへと向かっていく。

「由美ちゃん、頑張ってね」

 高校に入って初めての大会で、さすがに緊張しているであろう寺尾と村山に皆で声をかけている。

 ってあれ? 正確には寺尾には皆から声がかかるが、村山には瀬戸先輩だけ?

 それでもいつものように自嘲気味に落ち込んでいないのは、緊張しているからなんだろう。

「ほら。浅野君も何か言って」

 あーちゃんに言われたが、特にこういった場面に似合うボキャブラリーは無いんだよな。俺理系だし。

「頑張れよー」

と、当たり前の言葉を口にしてみたが、その言葉を聞いた寺尾の緊張した表情が、いつもの笑顔に戻った様に見えたのは、多分俺の自意識過剰のせいだろう。


「ところで、プログラムは?」

 各種目に出場する選手名を載せた大会プログラム。

 各校1部は無料配布されるが、それ以上は有料で1冊1000円。

 がめついよな、水泳連盟ってのも。

「あ、これだよ。ちゃんと浅野君の名前も載ってるから」

と妹北田は差し出してくるが、何か含み笑いをしている。

「どうかしたか?」

 全く心当たりの無い俺には、その含み笑いがお多福に見えるんだが。

「ちょっと! そんなに丸くないわよ! まだ!」

 まだってことは……ちょっとはきてるんだろうな。

「うるさい! 思春期の乙女に体重の話をするな!」

 思春期の乙女ってよりも、近所の噂好きの井戸端おばちゃんず、なんだけどな。

『バシーン!!』

 いってー!!

「ず、ってことは私も入っているのよね?」

 あーちゃん、体罰反対!
 
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