ブルー・フィールド
 
 立花先輩はラスト5mラインを通過する時には、2位以下を身体一つ程引き離して、第二泳者の寺尾に引き継ごうとしている。
 
「寺尾さん、大丈夫かな?」

 村山が心配しているのは引き継ぎの事。

 寺尾は練習時に、引き継ぎのタイミングが悪い、と先生に指摘されていた。

 視力の問題もあるのだろうが、前泳者がタッチするタイミングを計り損ねる事しばしば。

 昨日の最終調整では、それなりに出来る様にはなっていたんだが。

「それはそうだが、村山には他人の事を心配する余裕があるのか?」

「え……その……」

 当然ながらか、村山はリレーに慣れていない。

 中学時代、大会にはほとんど出てなかったらしい。

 市大会は色々な偶然が重なって出れただけだったとか。ラッキーなんだか情けないんだか。

 引き継ぎのタイミングは頭で理解するよりも、体で覚える、とにかく場数をこなすしかない。

 前泳者のタッチするタイミングなんて、毎回同じじゃないし、人により違うのも当たり前。

 あまり自信がない、絶対に失敗したくない場合は、フライングにならないように、多少遅目のスタートを切るしかない、な。

「お。良い感じじゃないか」

 寺尾のスタートは、これまでの練習では無かった程の好スタート。

 多分まぐれだろうが、それを言って機嫌を損ねるのも嫌だし、大人になって誉めておこう。

 さて寺尾だが、さすがに第二泳者の中では抜きん出ているようだ。

 立花先輩が付けた差を守るどころか、ぐいぐい突き放している。

「やっぱり寺尾さんは速いね」

「ああ。伊達にSSへ行ってなかったな。あっ!」

「そんなわざとらしく……」

 さすがにこのいじめ方にはもう慣れたみたいだな。大して落ち込む姿勢もみられない。

 レースに視線を戻すと、寺尾のペース自体はあまり上がっていない模様だが、それなりに二番手コースを引き離している。

 緊張しているか、多少疲労もあるんだろう。

 どんなスポーツでも同じ、精神が肉体に与える影響……の話はスポーツ心理学博士に譲ろう。

 難しくて覚えられない訳じゃない。

 どうせ覚えられないから勉強しないだけだ。
 
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