ブルー・フィールド
「お疲れさん。はよ上がんな」
井上先輩に促されてプールから上がる。
「結構競っとったに、あんまタイム良くないな」
井上先輩に言われ、電光掲示板に目をやると……1分5秒3、か。悪い方だな。
「今日は疲れてるし、しかたないな」
兄北田はねぎらう様に言うが、だったら普通に泳がせてもらえませんかね?
「それより、村山はどうだ?」
俺の視線から逃れるように、レース中の村山に話題を切り替えやがった。
まあリレーの最中だ、と見てみると……。
えと、さっき俺が見た電光掲示板では、俺は2位でタッチしたことになっているはずだが。
村山君? それは何位ですか?
「村山はなあ。フォームは良いんだが、何でスピード出ないんかね?」
先輩達の言葉のままだ、なんでか村山は遅い。
腕の上げ下げ、水中の掻き方、バタ足のバランスや手とのタイミング、どれをとっても危ない通信教育のビデオモデルになれるくらいに綺麗なんだが。
多分、相対的に力不足なんだろうな。見た目虚弱体質っぽいし。
今は50mターンに差し掛かるところだが、村山の順位は5位。
あと2人とはほとんど差が無いから、残り50mで抜かれるのも決定項だな。
「高校最初の大会だし、一緒に泳いでるのは殆どが二、三年生だからな。仕方ないさ」
なんかうちの部は俺に厳しく、村山に甘い傾向にあるなあ。
ちょっとぐれてやろうか?
結局、村山は6位で戻ってきた。
入れ替わりに井上先輩が飛び込む。
ブレスト選手とはいえ、中学時代からの水泳部らしくクロールも安定して速いから、まだ安心して見ていられる。
へたり込んでいる村山でもねぎらってやるか。
「今日はどうだった?」
「うん。楽しかったよ」
調子が良かったかどうかを尋ねたのに、意味を取り違えやがったから、とりあえず小突く。
「痛いよ! なんで?」
「別に村山が楽しかったかどうかには興味無い」
「だからって……」
おや? 村山が何か言っているようだが、水が耳にでも入ったか、聞き取り難いな。
まあクールダウン程度に軽く流しておく。