ブルー・フィールド

　
　さて、アンカーの兄北田。

　普段はおちゃらけたキャラながら、泳ぐ時は真剣そのもの。

　ベストタイムはまだ１分０２秒台だが、このクラスならば十分速い。

　今年は１分を切らせる、と先生は意気込んでいるくらいだ。

　当たり前ながら、余程の選手でない限り、２組目に敵はいない。

　今も７コースはおいてきぼりにし、５位の６コースを猛追している。

　５０ｍターン、綺麗なクイックを決める。この時６コースとはほぼ同時。

「このままいけば４位まで上がれるかな」

　村山は妙に興奮している様子で見ている。

「まあ村山の分を取り戻すのが、キャプテンの努めなんだろうな」

「そんな意地悪、言わなくても……」

　村山をイジメ過ぎても、俺が悪者に見えるだけだから、これくらいにしておくが。

　後半の半分、７５ｍラインに着く前に兄北田は６コースを駆逐。５位に上がった。

「しかし北田先輩がこの学校にいるのが不思議ですよね」

　このクラスであれば、もう少し水泳の強い高校に行っていても不思議はない。

「あいつはなあ。泳ぎはそこそこいけるけど、成績がな」

　井上先輩の言葉、なぜか俺にも突き刺さる。

「そういえば浅野君も成績が……」

『ボコッ！！』

　無駄口を叩こうとした村山のボディーに一発拳を入れておく。

「ホントの事言って、何で殴られなきゃいけないんだよー」

「世の中には、口にして良い事と悪い事がある、くらいは分かるだろうが」

「でも暴力も悪い事だってわかるでしょ！」

　ん、たしかに。それは正論だな。

　と、レースそっちのけでバカな話をしている間にも、兄北田は４位の２コースに追いついている。

　現時点で７５−８０ｍ間かな？　ここまでなら何とか抜けそうなんだが、この前、３位の８コースには届かないだろう。

　残り１０ｍ辺りで４位の２コースとならぶ。

　同時に１位の５コースと２位の４コースは同時にタッチしてゴールイン。

　こちらには関係ない話だから、心の中でご苦労さん、とだけ言っておこう。