赤い白ワイン
傘を斜めに傾げ、漆黒の傘に半分だけ隠れた灰色の空を見上げる。
ふと、

「春から初夏に掛けて降る小雨は、儚く可憐で美しい」

と、ある作詞家がドキュメンタリ番組のトークシーンで語っていたことを思い出す。

そう。
まさにこのような天気が、雨が美しいらしい。
残念だ。
私には、とてもそうとは思えない。
じめじめとした纏わり付くような感覚を生む雨のどこが良いのだと、抗議したくなる。

まあ確かに雨を美しく思えるような美的感性が欲しかったなと羨ましく思い、その心があれば憂鬱を消し去ることも出来るだろうし、もしかしたら憂鬱を作らないで済んだかもしれない。

だが、その考え空しく次の瞬間には、この街に住んでいる以上必要の無い感情だと気付き、思考の渦という現実逃避行から帰ってきた私は溜まりの出来た路上に視線と共に煙草の紫煙を吐き落とした。
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