赤い白ワイン
私の住む4世帯しか入らないちっぽけな2階建てのアパートから3ブロック先にあるコンクリート壁の雑居ビル。
金融会社の事務所として使われていた建物。
私が過去形で話したとおり今は倒産したのか、移転しただけなのか、ビルは無人の廃墟となっている。
あらゆるところに罅が生じて、窓硝子は風通しを配慮してのことか所々割れて穴が開いている。
この時季では風だけではなく、雨まで降り注いでいるに違いない。

そんな無機質なビルの前に差し掛かったところで、ふと私は足を止めた。
視界の中で何かを見たような気がしたからだ。

私はその何かを確認するために街道から廃墟ビルとその隣に建てられた赤茶色の煉瓦壁の真新しい建物の間の薄暗い空間に眼を凝らした。
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