いつわり彼氏は最強ヤンキー[完]
「……座って?傷、手当てするから」

先ほどの抱擁を問い詰めるより、久世玲人の傷の方が優先だ。

とにかく、手当てしないと。


椅子に促す私に、久世玲人は苦笑しながらも大人しく座ってくれた。


「これくらい、ほっとけば治るって」

「いいから」

せめてこれくらいさせてもらわないと、私の気分が晴れない。

棚から消毒液とコットンを拝借し、座っている久世玲人の前に立った。



まさか、二度も傷の手当てをすることになるとは…。

久世玲人を無理やり連れて帰ったいつかの光景を思い出してしまう。


「じゃあ、ちょっと染みるけど…」

コットンに消毒液を含ませ、切れている口元にそっと押し当てた。

「痛い?」

首を傾げながら問いかけると、久世玲人は無言のまま小さく首を振った。

そして、そのままじっと私を見上げてくる。

何か物言いたげな視線で。


…ち、近い…。


私も少し屈んでいるためか、間近に見つめられてかなり動揺してしまう。


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