いつわり彼氏は最強ヤンキー[完]
きっと、もうずっと前から、好きになっていたのかもしれない。

自分でも気付かないうちに。


――――いや、気付かないように心の奥に閉じ込めていたのかも。

気付くのが、認めるのが、恐かったのかもしれない。

このあやふやな関係のまま、久世玲人への気持ちを自覚してしまうのが。


「―――つ…」


でも、こうして自覚してしまった今、私はどうすればいいんだろう。

まさか、このタイミングで気付くなんて…。我ながら、時と場所をもっと考えて欲しかったものだ。


「菜都!」


強く名前を呼べれて、ハッと目を見開いた。

目の前には、眉を寄せた久世玲人の顔。


「どうした?何回呼んでも反応ねえし」


呼ばれてたことも気付かなかった。

えっと…えっと…

なんでもない、と言いたいところだけど、声が出ない。間近で見つめられ、息が止まりそうだ。

僅かに、ふるふると顔を横に振ると、久世玲人は鋭い視線のまま言葉を続ける。


「余計なことは考えるな。―――俺のことだけ、考えてろ」



―――こくん、と首が勝手に頷いた。

もうすでに、久世玲人のことしか考えていない。

心は、捕われている。


でも、そんなことを言われてしまうと…。一体、どういうつもりで言ってるんだろう…。


力強くて大きな手が、私の頬を包む。

急に恥ずかしくなり、カーッと全身をみるみる紅潮させると、久世玲人は私の唇を親指でそっとなぞり、満足そうに微笑んだ。

触れられた部分が熱を持ち、心臓が尋常じゃないほど騒ぎ始める。

溢れる想いが抑えられないのか、体が小さく震えてしまう。


「―――目、閉じて」


この言葉が意味することは。


何も考えられず、言われた通り素直にギュッと目を閉じた瞬間―――…


久世玲人の唇が、ゆっくりと重なった。


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