いつわり彼氏は最強ヤンキー[完]

文化祭

それから、約一ヶ月が過ぎていった。

久世玲人の謹慎もとけ、いつもの日常が戻ってきた。

噂が誇大してたぶん、どうなることやら、とみんなの反応を懸念していたけど、学校中が慌しい今、誰も停学のことに触れてこない。

というのも、今週末は我が校の文化祭だからだ。その準備のせいで、皆、久世玲人どころじゃないらしい。

タイミングがよかったんだろうか…。


私としては文化祭どころではないけど…。

久世玲人が好きだと自覚してから、大変でしょうがない。体がおかしくなっていくあの症状は加速する一方で、一緒にいるだけで動悸が激しくなる。

あれはやはり恋のせいだったのだと、今さらながら気付いた。


はぁ…どうしよう…

この一ヶ月、私たちの関係に変化はない。どうにかしなきゃ、と思うけど、踏み出す勇気がない。

いつわりの関係でも、崩れてしまうのが恐いのかもしれない。



「ねえ、原田さん」

「はいっ!?」

放課後、掃除を済ませて教室で一人もの思いにふけっていたら、クラスの文化祭実行委員に声をかけられた。

「あの…、久世君ってどこ?」

「え!?どうして!?」

「ほら、停学だったから役割がふられてないけど、せっかくなら少しでも文化祭に参加してもらえたらなーと思って」


役割というのは、出し物の役割分担のことだ。うちのクラスはカフェをする予定で、クラスの皆にそれぞれ役割がふられている。

私は、文化祭当日に飲み物を準備する係だ。裏方的な仕事でとてもありがたい。


「声、かけてみようか?」

「うん。来てくれるなら、ぜひ」


文化祭、手伝うだろうか…。……しないだろうなぁ。

この子もたぶん期待していないだろう。実行委員という立場上、声かけてきたんだと思う。そんな口ぶりだ。


それでもまぁ、念のため聞いてみようと、屋上で待っているであろう久世玲人のもとへ向かった。





< 361 / 446 >

この作品をシェア

pagetop