いつわり彼氏は最強ヤンキー[完]
体が、ギュッと締め付けられる感覚。


――――違う。



私が知っているものと、違う。


私にキスをする、あの唇じゃない。私を抱き締める、あの腕じゃない。


そう感じた瞬間、ガクガクと足が震え出し、その違和感から離れたくて、何かを探し求めるかのように、手が宙をさ迷う。


佐山君は私を抱き締めながら、耳元で切なげに囁いた。さっきまで優しく笑っていたのに、その声はとても苦しげで…


「―――やっぱり、諦められないって言ったら?」


瞬間、ドクドクと痛むように心臓が騒ぎ出す。

佐山君の想いが痛いほど伝わってくるのに、それでも、この腕の中から逃れたいという思いの方が強かった。


「佐山君っ…離してっ…何でこんなことっ…」

「好きだからだよ」


それしか理由はない。

そうハッキリと伝えるかのように、佐山君は静かに言い切った。


「原田さんが好きだからだよ。久世が原田さんの前に現れる、ずっと前から」


好きだと言われることがこんなにも辛くて…。

心に突き刺さる。

震える体を抑えようとするけど、溢れる涙を堪えようとするけど、私の意思じゃどうにもならなくて。

これ以上、何も言えなくて。



いつも穏やかに笑っていた佐山君を思い出した。

その優しい笑顔に、いつも憧れていた。その優しい声に、いつも救われた。


だからこそ―――こんなにも辛くて、悲しくて…。

この腕を突き放すことなんて、私にはできなかった。


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