いつわり彼氏は最強ヤンキー[完]
望んでいたのは、平淡な毎日。
特別なことなんて何も起こらない、平穏で平凡な生活。
彼と、――久世玲人と出会う前は、それが、私の理想だと思っていた。
……いや、今でもそれが理想なのかもしれないけど。なるべくなら、そうでありたいと願うけど、久世玲人と一緒にいるとそれは叶わない。
思い返すと、あり得ないことの連続だった。もちろん、平和な時なんてちっともなかった気がする。
ある日突然出会い、なりゆきで彼女にされ、相手の真意が分からないまま振り回され…
それなのに、いつしか私の心は捕われ、染まっていった。苦しくて苦しくて、恋をすることが、こんなにも苦しくて。
戸惑いと不安ばかりだった。
だから、いつわりの関係だったあの頃を思い出すと、「今」が信じられない。
本当の恋人になったことが、信じられない時がある。
嬉しくて、幸せで、溶かされてしまいそうになるけど、それが実は夢なのではないかと。
実はやっぱりいつわりなのではないかと。
本当か嘘か、分からなくなってしまう。
でも、―――そんな時、久世玲人は教えてくれる。
私の目を見ながら、笑ってくれる。
ギュッと抱き締めてくれる。
優しくて、甘いキスをしてくれる。
相変わらず、「好き」とは言ってくれないけど、それを感じさせてくれる言葉を、気持ちをくれる。
疑いようもないほど、態度で示してくれるのだ。
久世玲人によって、私の毎日は平穏とは言えなくなったけど、私はそれを望んだ。彼がいないと、心の平穏が保てないことに気付いた。
こんなはずでは、とあの頃の私が見たら嘆くかもしれない。今でも、笑ってしまいそうになる時がある。
それでも、やっぱり戻りたいとは思わなかった。
だって、彼と過ごす毎日はドキドキと騒がしいけど、いつもキラキラと輝いているから―――
★おわり★