同居から始まる恋もある!?

部屋の隅、遠慮がちに置かれたボストンバックがひとつ。それには色々なものが詰め込まれているのだろうけど、随分と重たそうだ。

正座をしている芹生の前に、わたしも同じようにして座る。


「7年間も、音沙汰なし」

「え、そうだっけ?」

「…」


あくまでとぼけようとするのか、芹生は視線を空に投げながら、そんなことを嘯く。


「なにしにきたの?突然、連絡もしないで」


芹生は、真剣な顔をして、ようやくその形の綺麗な薄い唇を開く。


「……実は、家賃滞納しすぎてアパート追い出されちゃった」


ぺろりと舌を出す芹生に、わたしは完全に脱力してしまった。がっくりと肩を落とすわたしを芹生が心配そうに覗き込んでくる。


「大丈夫!?サチ」

「……出てけ」

「え」

「出てけっていってんの!!」


なにこのへたれ。なにこのダメ男。こんなの、わたしが知っていた深山芹生じゃない。
まるっきり別人だ。


「どうしちゃったの、芹生……」


思わず、わたしは芹生に向かって問いかけていた。すると、それまでヘラヘラしていた芹生の顔から一瞬表情が消えたものの、すぐに綺麗な微笑みを浮かべる。


「俺はあの頃から何も変わらないよ」


そんなデタラメを言った。

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