同居から始まる恋もある!?
マスターは、ゆっくりと穏やかに微笑んだ。
「君のことは、この6年間共にここで働いて、随分近くで見てきたつもりだよ。芹生は、君が思っているよりもずっと、優しい人間だから。人を幸せにする価値がないと、そんな風に思い込んでは駄目だ」
ぎゅっとこぶしを握り締める。
その言葉が無性に心に染みて、馬鹿みたいに涙が溢れそうになってどうしようもない。隠すように、慌てて下を向いた。
「僕も、それに律だって、君に幸せになってほしいんだよ」
「…マスター」
打ち付けて痛む身体を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。
「逃げた分、距離が出来るのは当然だ。そろそろ、振り返る時なんじゃないかな。まだ間に合うよ、きっとね」
「…はい。あの…、ありがとうございます」
俺はマスターと、そして律に頭を下げて、店を出た。