同居から始まる恋もある!?
大体、なんでわたしがこんな想いをしなきゃならないんだろう。
不満を抱きながら、スプーンでカレーのにんじんの欠片をつつく。
「こんなことしてくれなくたって、もうにんじんぐらい食べられるのに」
ぽつりと零れ出た自分の言葉に、動きがとまる。
わたしは、ゆっくりと腰をあげて全身鏡の前に立つ。
そこには、いつもと変わりないじぶんが映っている。首筋には、きのうの夜に武につけられたキスマークがくっきり。とてもじゃないけど、絆創膏で隠せる大きさじゃない。
きっと、芹生も気づくだろう。武は、わざと芹生が見える位置にキスマークを残すから。
「……なにも聞かないよね」
呟いた自分の台詞が笑える。もし聞かれたとしても、結局何を答えるわけでもないくせに。
ふと足元を見れば、そこには口の開いた煙草とライターが置かれていた。
武の吸う銘柄ではないから、これは芹生のだ。
―煙草吸うんだ。
そんなこと知らなかった。
わたしが知っている芹生は、7年前の芹生であり、それから彼がどういう風に暮らしてきたか、わたしは何も知らない。
音信不通で、一度も実家に帰ってこなかったくせに。
なぜ急に目の前に現れたのだろう。
咥え煙草に火をつけて、吐き出した紫煙に視界が曇る。
そう。
わたし達はこうして7年振りに顔を合わせたとしても、結局は互いに昔の面影ばかり求めていることに、ほんとうはとっくに気づいていた。