きみといつまでもいたい
一郷家の敷地の裏に一軒の洋館があった。
イギリスから移り住んだ老夫婦が住んでいたのだが、数年前に相次いで亡くなり空き家なっていた。
樹から、彼の兄家族が日本に戻ってくる、その落ち着き先を探していると聞いた時、一郷は真っ先にこの家のことを頭に思い浮かべた。
その家は、彼らのとの楽しい思い出と共に、一郷家にとって、とても特別な場所だったのだ。
目の前に広がる隣家。
その裏庭と一郷家は、木戸一つで繫がっていた。
そこに人の住まう気配を想像してみる。
子どもの笑い声や、皿の触れ合う洗い物の音。
(新しい出会いは良いものだ)
その家は、一郷家にとって、そんな特別な繋がりを予感させた。
その洋館は、大屋根の二階建てで、気持ちの良い居間が海に面した庭に向かって開かれていた。
裏庭に面して、キッチンと浴室があり、二階に部屋が三つあった。
三人家族が住むには十分な広さである。
庭には、老夫婦が丹精込めた花々が、歳を経た今も毎年花を付けていた。
その家を見て、先ず気に入ったのはジョセフィーヌだった。
ひと目見た時から、まるで生まれた時からこの家で生活していたかのように、彼女はこの家に馴染んでしまった。
彼女はそれぞれの部屋の扉を開け、匂いを嗅いた。
そして、その部屋の窓を一つ一つ開け、そこから見える景色を確認した。
すっかりこの家の住人となった妻を見て、大樹も直ぐに気持ちが固まった。
「ここに決めよう」
それから、ここで、三人の暮らしが始まったのだ。