先生、男と女になれません。 -オトナの恋事情ー
「和希ちゃんってホントオネェなのに男前よね、私ならこんな話した後できっと亘理君を食べちゃうわよ」
「いえ、きっと僕なんか食べる価値も無い男だから」


後ろ向きな気持ちが口を突いて出てしまうほど、今の僕は弱りきっている。


もしもあの後、誘われていたら迷わず和希さんに付いて行っただろう。


そして業界デビューを果たし……


「亘理君、もうすぐ閉店よ」
「すみません、長々と。失礼します」


お会計をしようとしたらクミさんは


『和希君にツケとくからいいわ』


と言い、ドアを開けて店の外へ体を押し出す。


「お休みなさい」
「お休みなさい、またね」


蛍光灯が照らす薄暗い雑居ビルの廊下を歩き、エレベーターで降りてみればエントランスにはもう朝日が燦々と差し込んでいた。


普通の人にしてみれば暗い夜は終わり、輝かしい1日の始まりの筈。


だけど僕はまだ1人、暗闇の中。
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