先生、男と女になれません。 -オトナの恋事情ー
痩せた僕でもそこのスーツを着れば、キリッと頼もしく見えるよと勧めてくれて。


『このネクタイ、裕実がプレゼントしてあげるね』


いかにも就職活動用といった派手過ぎないネクタイを選んで、その場で締めて……。


「今日、あの時のネクタイ締めて来てくれたんだぁ」


言われて気付く、無意識のうちに僕がこれを選んでいた事を。


どうして忘れていたんだろう、と慌てて襟元へ手をやり、それを外す。


「とにかく、もう」
「裕実のマンション、この近くなの。だから、お茶でも飲んで少し休んでもいいよ」


そう言うと強引に僕の腕を引いて銀座の裏路地へ進み、タクシーを捕まえると銀座一丁目にある高級賃貸マンションまで連れて行かれた。


「会社から近いからここを借りたの」


自力じゃないのは分かる、家賃だって相当なはずだとやけに広いリビングへ置かれた真っ白なイタリア製ソファへ身を鎮める。
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