先生、男と女になれません。 -オトナの恋事情ー
「いい生活をしてるね」
「そんな事無いよ、だってここ賃貸だもん」


目の前へ置かれたオーク材のテーブルの上には、マイスンのティーセット。


僕の部屋にある物と全く同じカップへ注がれたのは、フォーチュナムメイスンのダージリン。


過去を再現するかのような一連の行動を不審に思うけれど、何も言えないし出来ない程、僕は酒に飲まれていた。


「亘理君、裕実の事、まだ怒ってる? 」


ホルターネックのドレスから伸びた白い両腕をソファの背もたれへ掛けて、至近距離からこちらの顔を伺う。


目つきはお得意の上目遣い、この目がカワイイと昔は喜んでいた。


「怒って……いや、怒るより悲しくて、絶望したよ。全てに」
「そうだよね、やっぱり。でも、今の亘理君があんまりカッコ良くて、つい部屋まで誘っちゃった」


僕がカッコイイ? 相も変わらずモシャモシャのクセ毛でメガネでガリガリで貧乏な僕が?


思わず裕実の目を見詰めると、そのまま顔が近づいて来た。





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