先生、男と女になれません。　－オトナの恋事情ー
「宮澤さんっ！　」


涙を拭おうと手を伸ばしたけれど、それをムチで振り払い両手で顔を覆いながら床へ崩れ落ちる。


打たれた手は痛かった、でもここで誤解させたまま終わらせてしまうなんて絶対にダメだ。


「誤解しないで下さい、裕実とは何もしてません。迷いましたけど、でも、僕はまだ諦めてませんから」
「嘘吐き！　」
「嘘じゃありません、和希さんに聞いてもらえばすぐに分かります、それに僕がそんなヤツじゃないって宮澤さんは分かっているでしょう？　」


元カノと簡単に寝るような男じゃないから、あの夜だって誘われたのに応じなかったんだと泣き顔を隠す両手へ手を掛けて広げると、僕は初めて彼女にキスをする。


諦めかけていた想いを伝える為に、僕のせいで流させた涙を止める為に。


「神崎……」
「今日からまた執筆再開します、だから僕の側で見ていて下さい。そして、ダメ出しをガンガンして下さい。それから賞を獲るまではあなたに指一本触れません」


本当はもっとキスをしたいと思った、でもこの仕事を成功させるには編集者と作家の区切りを付けなくてはいけない。


彼女にもっと信頼して貰えるように、自分が強くなって再び立ち上がる姿を見せたいから。
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