先生、男と女になれません。 -オトナの恋事情ー
良かった、気付かれなかった。


さあ執筆しよう、えーと今日は初めてのデートシーンだよな。


プロットに書いてある行き先はド定番のフェアリーランド、初めてそこで2人はキスをするという展開。


さあ書くぞ! と勢い込んでキーを叩こうとしたけれど裕実との思い出があり過ぎてなかなか進まない。


「出来たぞ」
「はーい」


それでも夕食のテーブルへ就き、いそいそと甘酢ソースの掛かった揚げ立てのから揚げを口へ入れようとした瞬間、宮澤さんが険しい目で僕を見る。


やっぱり気付かれたか、気が散って執筆が進んでいない事を。


「神崎、どうした? 少しも音が聞こえて来なかったようだが」
「すみません、あの、遊園地でのデートシーンがちょっと」
「ちょっと、何だ? 男ならハッキリ言え! 」


バッシーン! 今日の得物は先端が6本に分かれたムチ。


いつも思うけれど、どこからこんな物を手に入れて来るのだろうか?


まさか出版社の薄給に耐えかねて、夜にそういうクラブでバイトをしているとか。
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