大好き‥だよ。
『まぁいいや。
分からない奴も、分かってる奴も、パソコンの横に置いてあるモニターに目を向けろ。俺が実際に西山にメールを送ってみるから』

『俺に?』

『別にいいだろ。全員モニター見てるか?』

そう言って、少し背伸びをして教室の中を見渡した。

『よし、始めるぞ』

私は、口の中に溜まった唾を一気に飲み込んだ。

『まずこのボタンを押して、次にこれを‥』

先生はゆっくりと丁寧に教えてくれた。モニターと同じ順序で作業すると、あっという間にメール新規作成画面が表示されていた。


『勘違いしている奴がいると思うけど、学校のパソコン1台1台にアドレスっていう、いわば住所と同じようなものが存在しているんだ。特殊構造だからと言っても、それは変わらない。俺がさっき言いたかったのは、外に発信することは出来ないが、この教室内のパソコンに向かって発信することは出来るってことだ』

そんな説明されても分からない私たちは、ただただポカンとした顔で先生を見ていた。

『って言っても分からねぇよな。俺も始めの頃は意味不明だったし‥』

『先生も?』

『当たり前だろ。そんな話をされて「難しい、出来ない、つまらない」って最初に感じちまうと、パソコンの授業が嫌になっちまう。そうじゃなくて、俺の説明をきちんと聞いて、モニターを見ながら同じ操作をすれば「楽しい」って思えるから。とにかく、最初が肝心なんだ。だから「分からない」って思ったら恥ずかしがらずに手を挙げろ、いいな?』

『『はーい!!』』

『じゃあ今、メール新規作成画面になっていない奴は手を挙げろ。誰かいるか?』

先生は教室の中をゆっくりと見渡したけど、手を挙げている人はいなかった。

『じゃあ、次に進むな。次は、この宛先に記入する英数字だけどな‥』

先生は出来る限り分かりやすくモニターを使って説明してくれた。操作をしている最中、先輩の言葉を思い返していた。

”堀内の授業は、はっきり言って地獄だよ”

私はそうは思わない。
先輩がそう思ったのは、先生の説明を聞いていないからだよ。きちんと聞いていれば「楽しい」って思えるのに。

先輩を少しだけ哀れんだ。
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