大好き‥だよ。
『でも、よくここにいるって分かったね。立ち入り禁止になってからは、見つからないようにこっそり来てたつもりだったのに‥華代にはバレてたのか』

苦笑いをしていると、華代は立ち上がって扉に向かって歩き出した。

『‥‥かったよ』

『えっ?ごめん。今、なんて言ったの?』

上手く聞き取れなかったので立ち上がって、華代の近くに歩み寄った。華代は錆びたドアノブを左右に回していた。

『だから、知らなかったって言ったの。結がここにいるなんて』

『えっ?じゃあ、どうしてここに来たの?校内を探し回ってくれたの?』

『まさか~(笑)その答えはまた今度ね。それより、結はいつからここに通うようになったの?』

私は扉を背中に当てて腰を下ろした。廊下からは、微かにだけど歌声が聞こえてきた。何処かのクラスは音楽の授業をやっているんだろう。リズムをとっていると、華代も扉に背中を当てて私の横に腰を下ろして座った。蛍光灯が今にも切れそうだった。

『いつからって‥1年の夏にみんなで来てからずっとだよ』

『嘘?だって冬には立ち入り禁止になったじゃん。鍵をかけて封鎖したっていう噂も流れてたよ?』

『うん。でも私には開ける事が出来たの』

『どうやって?』

『それはね‥』

私はポケットに手を入れて鍵を取り出した。

『これを使ったの。って言っても、最近は開けるのには一工夫がいるんだけどね』

鍵を高く上に投げてキャッチしようと思ったら、華代が先に手を伸ばして鍵を掴んだ。

『これって、ここの鍵?』

『うん』

『何で結が持ってるの?職員分しかないんじゃないの?』

『そうみたいだね。でもね‥
ある日持ち歩くのが面倒くさいと思った先生がいました。その先生は鍵を持ち歩かなくて済む方法を考えました。そして、扉の近くに鍵を隠すようになりましたとさ』

紙芝居風に語ると華代が納得してくれた。

『なるほど。そして結が持ち歩くようになりましたとさ。めでたしめでたし?』

ふと、華代を見ると私の顔をじいっと見ていた。

『‥だね』

短く返事をしたあと、笑った。
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